ガラスコア基板とは?TGVめっきの仕組みと量産化の課題を解説

生成AIの普及や高性能コンピューティングの拡大を背景に、半導体パッケージには、I/O数の増加やデータ帯域の拡大、消費電力あたり性能の向上といった要求が高まっており、より多くのチップを高密度で接続する技術が求められています。その候補の一つとして注目されているのが「ガラスコア基板」です。
ガラスコア基板では、まずガラスを貫通する微細な孔(TGV hole)を形成し、その後、内壁へのシード層形成および銅めっきにより導体構造(TGV via)を構築して電気的接続を実現します。一方、量産化に向けては、導体充填時のボイド、ガラスと金属の密着性、マイクロクラック、大型パネルでの面内均一性など、複数の課題があります。
本記事では、AI・HPC向け先端パッケージの開発に携わり、ガラスコア基板やTGVの採用可能性を検討している方に向けて、注目される背景、TGV形成・めっきの基本的な流れ、量産化で課題となるポイントを、専門用語を補足しながらわかりやすく解説します。
目次
1、ガラスコア基板とは
ガラスをコア材に用いた半導体パッケージ基板
ガラスコア基板とは、半導体パッケージ基板の中心部分(コア材)にガラスを用いた基板です。従来は、樹脂やガラスクロスを組み合わせた有機基板が広く使われてきましたが、パッケージの大型化や配線の微細化に対応する材料として、ガラスの活用が検討されています。
ガラスには、高い表面平滑性、剛性、寸法安定性といった特長があります。また、ガラス組成を最適化することで、シリコンや周辺材料との熱膨張係数(CTE)の差の調整余地があるのも利点です。ガラスの種類によっては高周波領域での低誘電率・低損失などの電気特性にも優れ、微細配線や高速信号伝送への活用が期待されています。
有機基板と比べて注目される理由
現在主流の有機基板は、製造実績が豊富でコスト面にも優れています。一方、パッケージが大きくなるほど、加熱・冷却時の反りや寸法変化が問題になりやすくなります。また、有機基板では導体層との密着性を確保するために表面を粗化する場合があり、その凹凸が微細配線形成や高周波での導体表面損失の増加を招き、信号損失の一因となります。
平坦で剛性の高いガラスをコア材に用いることで、基板の反りを抑えながら、より細かな配線を形成しやすくなると期待されています。ただし、ガラスは衝撃や熱応力の影響を受けやすい脆性材料であり、加工・搬送時の割れや微小なクラックへの対策が必要です。
2、ガラスコア基板がAI半導体で注目される背景
チップレットによるパッケージの大型化
AI向けGPUやアクセラレータでは、複数の小さな半導体チップ(ダイ)を一つのパッケージ内で組み合わせる「チップレット」が広がっています。これに対し、SoC(System on a Chip)は、CPUやメモリ制御など複数の機能を一つのチップに集積する考え方です。
チップレットは、異なる製造プロセスのチップを組み合わせやすい一方、搭載するダイが増えるほどパッケージが大型化し、配線数や接続密度も増えます。そのため、パッケージ基板には、高い平坦性や低反り特性に加え、微細配線形成能力、寸法安定性(熱膨張・吸湿)および高周波領域での低損失特性など、従来以上に高度な性能が求められます。
ガラスの平坦性と電気特性への期待
ガラスは表面が平坦で寸法変化が比較的小さいため、露光・現像を用いる微細配線工程との相性がよいとされています。また、絶縁材料であり、材料設計によっては電気損失を抑えやすいことから、高速信号を扱う先端パッケージへの適用が検討されています。
ただし、ガラスコア基板は有機基板を全面的に代替する段階には至っていません。材料コスト、加工設備、量産歩留まり、信頼性評価などの条件を総合して、まずは高性能が重視されるAI・データセンター用途などから採用が進むと考えられます。
3、TGVとは?形成から銅めっきまでの基本的な流れ
TGVはガラスを貫通する電気接続用の孔
TGVは「Through Glass Via」の略で、ガラス基板を表面から裏面まで貫通する微細な孔(TGV via hole)、およびその孔の内壁にシード層を形成し、電解銅めっきにより導体を充填した構造(TGV via fill)を指します。基板の表裏を短い距離で接続できるため、信号経路の短縮や高密度実装に役立ちます。
TGVの孔径、深さ、ピッチ(隣り合う孔の間隔)は、ガラスの厚さやパッケージ設計によって異なります。孔が細く深いほどアスペクト比(孔の深さを径で割った値)が大きくなり、後工程の洗浄、下地形成、めっきが難しくなります。
代表的なTGV形成方法
TGVの形成方法には複数の選択肢があります。代表例の一つが、レーザーでガラス内部を局所的に改質し、その部分を薬液で選択的に除去する「レーザー改質+エッチング」です。ほかにも、レーザーで直接加工する方法などがあり、必要な孔径、形状、生産性、ガラス材質に応じて使い分けられます。
孔形成後は、内壁の残渣を除去し、孔内の濡れ性を確保し、後工程のめっきに適した表面状態に整えます。孔の形状や内壁状態にばらつきがあると、後のめっき不良やクラックの原因になり得るため、孔形成と前処理を一体で管理することが重要です。
TGVめっきの基本的な工程
TGVを電気的に接続するには、孔内壁に連続した導電層(シード層)を形成し、その上に電解銅めっきによって導体を構築する必要があります。一般的なプロセスは、洗浄・表面改質による前処理の後、PVD(スパッタ)またはALDにより高アスペクト比構造に対応したシード層を形成し、電解銅めっきによるビア充填を行う流れです。実際の工程は、ガラス材質や設備、TGVの構造によって異なります。
【TGVめっきの基本的な流れ】
TGV孔形成(レーザー改質+エッチング など)
洗浄・残渣除去・表面改質(前処理)
シード層形成(PVD/ALD)
電解銅めっきによるビア充填
CMP(平坦化)・検査
その後工程では、過剰に析出した銅を除去して表面の平坦性を確保するためにCMP(Chemical Mechanical Planarization)が適用されます。CMPは単なる平坦化工程ではなく、配線形成の基準面を決定し、後工程の配線形成や接続信頼性に直接影響する重要なプロセスです。特に、過研磨によるディッシングやエロージョンは、配線抵抗や応力分布の変化を引き起こすため、スラリー特性や研磨条件の最適化が求められます。
ガラスTGVでは、孔内の均一被覆性と連続性の確保が重要となるため、無電解銅めっき単独によるシード形成は適用が限定的であり、PVDやALDなどの物理・原子層堆積プロセスが主に用いられます。
TGVには、孔の内部を銅で埋める「充填タイプ」と、孔の側壁に導体層を形成する「コンフォーマルタイプ」があります。必要な電気特性、放熱性、コスト、信頼性に応じて構造を選定します。
4、ガラスコア基板とTGVめっきの主な量産課題
横スクロールでご覧いただけます。
| 課題 | 主な要因 | 主な対策 |
|---|---|---|
| ボイド | 気泡の残留、孔内部への液供給不足、開口部での先行析出 | 濡れ性・脱気の改善、液流動・電流条件・添加剤の最適化 |
| ガラス/銅の密着性 | 平滑なガラス面、シード層の不連続、皮膜応力 | 前処理・表面改質、均一なシード層、低応力皮膜の形成 |
| マイクロクラック | 孔加工ダメージ、端面欠け、衝撃、熱応力 | 加工条件、治具・搬送、めっき液条件、熱履歴の管理 |
| 大型パネルの面内均一性(膜厚・充填性) | 電流密度・液流動・温度の面内差 | アノード・遮蔽板・治具・液循環・電流波形の調整 |
| コスト・歩留まり | 加工時間、破損、検査負荷、工程ばらつき | 工程統合、欠陥分析、プロセスウィンドウの明確化 |
※各対策は一般的な方向性です。実際の条件は、ガラス材質、TGV形状、設備、要求特性に応じた評価が必要です。
1)TGV内部のボイドを抑える
TGVのめっきにおけるボイドとは、ビア内部に形成される空隙です。TGVの開口部で銅が先に析出して孔をふさいだり、孔の内部に気泡やめっき液の流れにくい部分が生じたりすると、内部にボイドが形成される場合があります。
ボイドは電気抵抗の増加や局所的な発熱、熱サイクル時の応力集中につながるおそれがあります。対策には、めっき前の濡れ性改善や脱気、液流動の調整、電流条件の最適化、添加剤による開口部での先行析出の抑制などがあります。
2)ガラスと銅の密着性を確保する
ガラス表面は平滑であるため、表面の凹凸に金属を食い込ませるアンカー効果を得にくい材料です。一方で、ガラスはSi-Oネットワークを持つため、表面の水酸基(-OH)を活性化したうえで、シランカップリング処理などにより金属層との化学結合を形成することが、界面密着性の確保において重要となります。
したがって、洗浄およびプラズマ処理などによる表面活性化、適切な界面処理に加え、孔内部まで連続したシード層を形成するプロセスの最適化が不可欠です。
さらに、めっき皮膜に大きな内部応力が残ると、温度変化によって界面にはく離やクラックが生じるおそれがあります。特に、TGV内部を銅で完全充填する構造では、ガラスと銅の熱膨張係数(CTE)の不一致により熱サイクル時に応力が蓄積しやすく、ビア周辺での応力集中やクラック発生の主要因となります。
密着性の評価においては、前処理条件に加え、低応力なめっき皮膜の設計、材料間のCTE差、後工程における熱履歴だけでなく、ビア充填構造に起因する三次元的な応力分布を考慮した評価が不可欠です。
3)マイクロクラックとガラス破損を防ぐ
ガラスは脆性材料のため、孔加工時のダメージ、搬送時の衝撃、加熱・冷却による熱応力などを起点として、マイクロクラックが発生しやすい特性があります。加工時に生じたマイクロクラックが後工程で進展すると、基板割れや絶縁信頼性の低下につながります。
そのため、レーザー加工条件、エッチング条件、洗浄方法、治具、搬送方法を含む工程全体の管理が必要です。めっき工程でも、めっき液条件や処理時間をガラス材質に合わせ、過度な熱的・化学的負荷を与えないことが重要です。
4)大型パネルで膜厚と充填状態を均一にする
量産性を高めるため、ガラスコア基板は大型パネルで処理する方向が検討されています。実際に、後述する大日本印刷(DNP)は、510×515mmのTGVガラスコア基板を公表しており、パネルサイズの大型化が進んでいます。
パネルが大きくなると、中央部と端部で電流密度や液流動が不均一になり、めっき膜厚やTGVの充填状態に差が出やすくなります。アノード配置、遮蔽板、治具、液循環、基板の揺動、電流波形などを調整し、面内全体で均一な膜厚・充填性を実現する必要があります。
5)コストと歩留まりを両立する
ガラスコア基板の量産では、ガラス材料の価格だけでなく、孔加工やめっきの処理時間、薬液使用量、設備投資、検査工数、破損率などがコストに影響します。既存設備を活用できる範囲や、治具・搬送系を含む設備変更の規模も、導入判断の重要な要素です。高精度な加工ができても、割れやめっき不良が多ければ量産にはつながりません。
各工程の最適化に加え、孔形成からめっき、検査までを通した歩留まり管理が必要です。欠陥の種類と発生工程を切り分け、処理時間、めっき液管理の負荷、生産性への影響も含めて、量産条件の許容範囲(プロセスウィンドウ)を明確にすることが重要になります。
5、TGVめっきの品質と信頼性を高めるポイント
添加剤・電流条件・液流動を組み合わせる
銅めっきでは、抑制剤、促進剤、平滑剤などの添加剤を組み合わせ、TGVの開口部と内部での銅析出のバランスを調整します。ただし、添加剤だけでボイドの発生を抑制できるわけではありません。これは、TGVのような高アスペクト比構造では、反応種や添加剤の拡散、電流分布、流体の供給状態が位置によって大きく異なり、単一のパラメータだけでは析出挙動を制御できないためです。前処理、孔形状、シード層、液流動、電流条件が相互的に作用することで、安定した充填が可能になります。
量産時には、めっき液濃度や分解生成物の変化も品質に影響します。分析方法、補給基準、ろ過、温度管理を含む浴管理を標準化し、条件変動を小さくすることが大切です。
シード層の連続性を確認する
電解銅めっきの前に形成するシード層が途中で途切れていると、その部分では銅が析出せず、ボイドや未析出の原因になります。特に高アスペクト比のTGVでは、孔の奥まで均一にシード層を形成できているかが重要です。
表面だけでなく孔内壁の被覆状態を確認し、必要に応じて次のような評価を組み合わせます。
- 断面観察による孔内壁の被覆状態の確認
- 膜厚測定による面内・深さ方向のばらつき把握
- 抵抗測定による導通・連続性の確認
単一工程ではなく、前後工程を含めて最適化する
TGVの品質は、めっき工程だけで決まりません。孔加工後の残渣、ガラス表面の状態、シード層、銅めっき、熱処理、研磨、検査までが相互に影響します。
不具合が起きた際は、「めっき液の問題」と決めつけず、孔形状、濡れ性、電気接続、熱履歴などを順に切り分けることが重要です。材料メーカー、薬品メーカー、装置メーカー、基板メーカーが評価条件を共有することが、量産立ち上げの近道になります。
6、ガラスコア基板の開発・量産動向
実用化に向けた取り組みが進む
Intelは2023年、次世代の先端パッケージ向けガラス基板ソリューションを2020年代後半に提供する計画を公表しました。平坦性や熱・機械的安定性を生かし、AIやデータセンターなど、大型かつ高速な処理が求められる用途への適用を想定しています。
国内ではDNPが2025年12月、TGVガラスコア基板のパイロットラインを新設し、2026年初頭にサンプル提供を開始する計画を発表しました。2028年度の量産開始を目標としており、充填タイプとコンフォーマルタイプの両方を対象としています。
このように、ガラスコア基板は研究段階だけでなく、サンプル供給や量産検証の段階へ進みつつあります。ただし、各社の計画や採用時期、要求仕様は変更される場合があるため、検討時には最新の公式情報を確認することが重要です。
7、まとめ
ガラスコア基板の量産には工程全体の設計が必要
ガラスコア基板は、高い平坦性や剛性、寸法安定性を生かし、AI半導体やチップレット向けの次世代パッケージ基板として期待されています。その中核となるTGVは、基板の表裏を高密度に接続するための重要な構造です。
一方、量産化には、TGV内部のボイド、ガラスと銅の密着性、マイクロクラック、大型パネルでの面内均一性、コストと歩留まりといった課題があります。これらは、特定の薬液や装置だけで解決できるものではなく、孔形成、前処理、シード層、銅めっき、熱処理、検査までを一体で最適化する必要があります。
特に、TGVの量産プロセスではいくつかの重要な技術論点が存在します。シード層形成については、ガラス系TGVの高アスペクト比構造では均一被覆が難しく、無電解銅めっき単独での対応は限定的であり、実際にはPVDやALDによる高被覆性プロセスが中心となります。また密着性に関しても、単純なアンカー効果ではなく、ガラス表面のSi-O構造に基づく化学結合(シランカップリングなど)が本質的な役割を担います。さらに、ボイド不良は単なる液供給不足だけでなく、添加剤の濃度分布、電流密度分布、析出速度制御の不均一性といった複合的要因により発生するため、電気化学・流体・反応の統合制御が不可欠です。
加えて、信頼性観点では、TGV内部の銅充填による熱応力も重要な課題であり、ガラスと銅の熱膨張係数差に起因する応力集中はクラック発生の主要因となります。また、クラックや界面欠陥はリーク電流や絶縁破壊(TDDB)などの電気信頼性にも直結します。さらに、めっき後工程であるCMPは単なる平坦化ではなく、配線形成の基準面を決定する重要工程であり、ディッシングやエロージョンが特性に影響するため、その制御が不可欠です。加えて、量産においてはX線CTやSAM、断面SEMなどを用いた非破壊・破壊検査による品質評価体制も重要となります。
ガラスコア基板を検討する際は、要求する電気特性や信頼性を明確にしたうえで、実際のガラス材質・TGV形状を用いた評価を早い段階から進めることが重要です。
8、めっき・表面処理薬品に関するお問い合わせ
メルテックスは、半導体やプリント配線板向けに、めっき液、めっき添加剤、前処理剤、エッチング剤などの表面処理薬品を開発・提供しています。微細回路形成やビアフィリングに関連する製品も取り扱っています。
ガラスコア基板やTGVへの適用可否は、ガラス材質、孔形状、シード層、設備、要求特性などによって異なります。関連製品や個別の対応可否については、対象となる材料や仕様に応じてご相談ください。


